デザインと人物像 イザベラ・ステファネッリのデザインは、モチーフとなる人物像にフォーカスし、その人のイメージでデザインを制作する。今シーズンの型である「パブロ」という型は「パブロ・ピカソという人物」をアイデアソースにしています。そして、イザベラ・ステファネッリでは毎シーズン大きくシーズナルテーマというものがあり、2018AWシーズンは「2」というテーマ。通常の白い毛の羊と黒い毛の羊、その2頭の羊を飼っている羊飼いが生地を作った、というストーリーのようなものがコンセプトの元になって「2」というテーマになっています。 「2」というのは彼女(イザベラ)の世界にとって重要な要素を持っています。生地は「縦糸と横糸」という2つの要素がないと作れません。そして「男と女」「右手と左手」といったように世の中の様々なものが「2」というファクターで分割できる。それが大きなメインテーマになっています。そこからスタートした物語を元にして、シーズンの生地開発が行われています。イザベラ・ステファネッリは毎シーズン7型程度発表されますが、それぞれに人物がフォーカスされています。全く新しいデザインというのは、難しいコンセプチュアルな話になりますが、「存在しない」とも言えます。 縫製箇所を減らした立体的なパターン デザインで他と比べて特殊なことをやるのではなくて、一見普通のように見えてやっぱり着ると違う。服に体が入って3Dになったときに初めて違いがわかります。「平面的な洋服」はダメだと言われることがありますがそれはパターンに原因があると考えられます。きっとそのパターンは建築の図面のように製図になっているのです。2Dの家の図面があって、それぞれの面を組み立てたら家になっていきます。洋服もそうで、パターンというのは平面だけで構成すると結構フラットなものなのです。通常は縫製の図面にして組み立てようと思ったら、全部細かくパネルにする必要があります。平面ではなかなか立体が表現できないため、簡略化して細かなパーツに分ければ立体にしやすくなるわけです。 しかし、彼女のような服作りのパターンの場合は縫製箇所を減らすため、必然的に立体的なパターンになっていきます。彼女のように縫製箇所を減らすということは、初めから立体でデザインを考えていないと出来ず、出来ない人が無理に実現しようとすると生地の無駄や使用量が大きくなってしまいます。なぜかというとロールでパターンを引く時に、「取り用尺」と言いますが、残反が出ないようにギリギリまで攻めてパターンをつめていきます。そうすると、ロールの生地面積に対して何名分生地が取れますという話になるわけですが、それが、立体的なパターンが上手く取れないと全然生地が取れなくなってしまうのです。 デザイン≒パターン さらに、彼女のデザインの場合は「この裾にはセルビッジを使う」などのこだわり(制約)があって、しかも単衣(ひとえ)でやるということになれば、ますます用尺をとることが難しくなります。しかし彼女の凄いところは、ギリギリの取り用尺でやっていきながら、それでも頭の中で、どういう形をしていて、どういうパターンを引けば大きくパネルが取れるのかを、デザインとして認識したうえでパターンを整形できるということなのです。簡単に言えば、3Dに落とし込む能力が低いと、もの凄い取り用尺が悪くなって、捨てる場所が多くなってしまう。しかし、彼女の場合はそこがアイデアとして強く有るわけです。 パターンというものは通常のデザイナーはそれをパタンナーに任せます。デザイナーも今ではデザイン画を書いてる人も少なく、どちらかというとアイデアマン的なポジションに近い存在です。言うなればディレクターのような感じであり、「こういうものが作りたい」ということを分業して振り分けができれば服を作れる環境にあります。そこから、デザイナーから受け取ったイメージをパタンナーがデザイン実現するために、パターンを引きます。それをサンプルを作ってチェックしていく。本来ならばパタンナーが2Dで図面を引いてから組み上げるという順番なのです。 通常とは異なる制作方法 ところが、イザベラの場合は縫製箇所を限りなく減らすパターンであるため、図面から制作することができません。言うのは簡単ですが、先に立体を作ってそれをどういう風に割れば平面のパターンにできるかを考えていくのは至難の技です。それで出来上がった立体を切った貼ったしながらできたものが型紙になり、その方法を取る結果いびつな形になることが多いのですが、それを取り用尺限界まで攻めてパターンを置いています。尋常ではないトライアンドエラーの繰り返しによってパターンが出来上がっていることがわかります。イザベラのメモなどを見るとスケッチの量がすごく、デザイン画というよりはパターンのスケッチです。 これらが結果として、生地開発と、生地を最大限生かすために縫製仕様の少ないパターン制作が最終的に1つのデザインとしてまとめられて、この雰囲気を作り出しているのです。つまりそれは、なかなか真似のできない服作りだと言えます。言い換えれば、「良い所取りをして真似をすることが難しい」パターンなのです。売れそうだからと言って、これをもっと安く作ろうということも出来ないし、特殊な生地という要素もあるけれども、パターンが独特な作りのため唯一無二の存在感を放つものが誕生するのです。本当に、このようなパターンを引ける人というのは貴重な存在なのです。 パターンとデザインを同時に考えられるデザイナーはなかなか居ません。もともと分業制の世界なので、基本的にはデザイナーの言っていることをパタンナーが理解してないから違う感じになってしまう、というのがありがちな話です。平凡なデザイナーが真似をしたいパターンがあったとして、それをどのようにパターンに落とし込めばよいのかは分からないのです。だからこそ、それが一人で全てできるという彼女に強みがあり、彼女の濃い部分やそのパターンの取り方に現れていいます。
バージニア T3|唯一のリピート品番であり、代表的なの一つであるバージニア。イザベラのオーダーによって日本の機屋(はたや)で織られた複雑なチェック柄の生地は、熟練の機屋の数十年培った経験則によって初めて実現することができる。リバーシブルのガーゼのような質感のこの生地は、チェック柄の黒い部分のみで接結されています。柔らかな質感とリバーシブル仕様のこの特別なバージニアはPHAETON別注品。特徴的なポケットは、仕上げの中で最上級の両玉縁仕上げとなっています。非常に難しいとされる細く美しい丁寧な仕事、一切妥協のないテイラーの技術が施されています。 [ MATERIAL ] Wo - Ra [ WOVEN IN ] Ichinomya Aichi Japan